渡辺電機(株)

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サテリコン

高瀬川に人喰いアナコンダが出るという噂は、京都市民のみならず夜の街を跋扈する勤王志士たちをも震え上がらせた。倒幕のためなら命も惜しまない剛の者たちも、大蛇に飲まれるのは御免こうむるわけだ。そんな噂を知っているから、龍馬に軍鶏を買ってくるように申しつかった峯吉は、なんとも厭な心持ちで、高瀬川の辺りを足早に、四条大橋の先にある鶏肉屋へ向かった。肉の匂いに大蛇が引き寄せられたら厭だな。だが、幸いにも行きも帰りも大蛇に出くわすこともなく、近江屋の前まで戻ってきた。近江屋の引き戸は開け放たれたままになり、高瀬川の流れから宿の中、そして二階への階段へと、なにか大きな濡れたものを引きずった跡がべったりと残されていた。峯吉は胸騒ぎを覚えて、側に立て掛けてあったさすまたを構え、及び腰で二階への階段をよじ登った。おそるおそる、襖を開ける。坂本さま、ご無事でございますか。峯吉、おんし見ちゅうがかよ。龍馬の顔をしたアナコンダが、天井から峯吉を見下ろしていた。こいが、おいの正体ぜよ。おまんも見た以上は、もう生かしておけないぜよ。中岡慎太郎と峯吉のふたりを飲み込んだ龍馬は、音もなく夜の闇に消え、そのまま歴史の闇に消えてふたたび現れることはなかった。