おれくらい世間の狭い世捨て人のような人間でも、半世紀も生きていればマルチの勧誘をされた経験はあるわけで、大学でよく皆の陰口を叩き合った親友のバルミさんが主婦となり、子育てが一段落した時期に突然コンタクトをとってきて「ＳＦ研のネットワーク」を賛美し出したり、アシに来た友人が高価なサプリをすまなそうに控えめに勧めてきたり、人生の意表をついた場所で出くわすさながら珍獣のようであった。後者の友人は当時FCに入っていた某バンドのギタリストに誘われたそうで、悪魔とは芸の話だけではなかったのかと、驚いたものだ。だが、そんな彼らをことごとく犯して殺して埋めてきたおれには、彼らを責める資格もない。いつの頃からかマルチの勧誘に異常なまでに性的な興奮を覚える性癖になってしまったおれは、今日も獲物を求めて渋谷のマイアミにいた。「お待たせしました」さも忙しそうにおれの前に座ったうさんくさい大男は、挨拶もそこそこにテーブルの上にタブレットPCやパンフレットを広げ始めた。ツンと鼻をつく鬢付け油の香り。かつてただ一人おれに殺されなかった男、白鵬との出会いだった。
永井豪は世界中に浸透してますね。どこの国の人かもよく知りませんが。
