ウニやカニを思う存分むさぼり食いたい一心で乗り込んだ函館だったが、北海道新幹線の開通以来、駅前の様相は一変していた。あれほど栄えた海鮮丼の店はすべて姿を消し、かつて朝市の賑わった場所にはアニメイトやとらのあなが入る巨大ショッピングビルが建ち並び、様々なコスプレで着飾ったおたくの若者たちで賑わっていた。港は埋め立てられて野外イベント会場になり、コスプレの撮影会やアイドルの握手会が行われ、大音量のアニソンが鳴り響いていた。もうおれの好きだった函館は、ここには無いのだ。せめて函館山から町並みを眺めて別れを告げよう。そう思って乗り込んだロープウェイも、ボディに美少女キャラがペイントされていた。ひしめき合うアニメファンで立錐の余地もない頂上から眺めると、五稜郭のあったはずの場所には、TENGA函館支社の自社商品をリアルに模した地上300ｍを超す巨大なビルが、そびえ立っていた。
