渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

ゴリラ文藝

目が覚めたら上野動物園のゴリラの檻に入れられていて、ついにゴリラと結婚か!と途方に暮れていたら、おれと同居することになったのはゴリラではなく、小説家の川端康成先生だった。いつも口をへの字に結んで端然と座し、静かに書き物をしている上品なお年寄りだが、ちょっと油断するとガス管を口にくわえて死のうとするので、世話係を兼ねた監視役としておれが送り込まれた由。そんな夜はノーベル賞授賞式の話を聞かせてもらったり、文豪たちのゴシップをねだったりしてご機嫌をとる。癇癪持ちで食べ物の好みもうるさく、来園者に愛想をふりまくこともない頑固者だが、ある夜、風呂あがりにぽつりと「いつも世話かけるね」と呟いたので、おや、と思った。翌朝、布団を見るともぬけの殻で、壁に巨大なサナギがぶらさがっていた。