相手が何か面白いものを秘めていたら、有名無名を問わずドンドン絡んでいって助力を惜しまず、底が見えたらバッサリ切り捨てる。そんな好奇心と優しさと残酷さを併せ持った恐ろしい人物であるデビッド・ボウイに、おれは過去に一度だけレコーディングへの参加を許されたことがある。コカインまみれのアメリカから脱出してベルリンへ拠点を移し、トニー・ヴィスコンティやブライアン・イーノらと新しい音に取り組んだ、意欲作「ロウ」に収録された「Allways crashing in the same car」の、テルミンのようなあの印象的な音。クレジットこそされていないものの、実はおれの屁の音をサンプリングしたものだ。どうしても日本人の屁の音が必要と言って譲らないボウイのリクエストで、数千人のサンプルの中から選ばれたおれが、ベルリンまで招かれて（もちろんファーストクラス！）スタジオで、ボウイの目の前で尻を出して放屁したのだ。「great!（とてもいいよ！）」ボウイ本人直々に褒められて舞い上がったおれは、調子に乗って括約筋を鍛え、再びボウイに連絡をとり、スタジオの本人の前で得意満面、屁の音で名曲スペイス・オディティを奏でた。一瞬の間を置いて静かに微笑み、「It's good（いいね）」とうなずいたボウイは、それから二度と連絡を寄越すことは無かった。
