アッと驚く掟破りの入団即トレードの荒業で入団した江川が、こともあろうにキャンプでおれと同室になるとは。無二の親友だった小林を阪神に追いやった張本人に復讐するチャンスが、簡単に転がり込んで来たのである。だが、キャンプ初日に広報に伴われて現れた江川を見て、おれを含めチーム一同、腰をぬかさんばかりに驚いた。初めて目にする江川の実物は、身長160cmそこそこの猫背の中年男だったのである。「いや、人違いです。漫画家の渡辺電機(株)です」なにか意味不明のことを言って逃げようともがく江川を押さえつけ、寄ってたかって背番号30のユニフォームを着せたおれたちは、神輿のように担いで宮崎グラウンドのマウンド上に放り投げた。「ちょっと！人違いですって！渡辺電機(株)です！」なおも泣き声で喚き続ける江川を一同が見守る中、闘将・中尾二軍監督の火の玉千本ノックが始まった。
1980年、演歌もテクノポップの呪縛から逃れられはしなかった！小林という男がまた無機的で、プラスチックの生活感の無さでテクノっぽさに輪をかける。
