昨夜遅くから都内に降り積もった大雪によって、おれの棲家であるダンボールの要塞は押しつぶされて水浸しになってしまった。もとより古新聞とどんぐり数個だけが全財産のおれに失うものも無いので、潰され水を吸ってどろどろになった旧居を捨て、今では六本木ヒルズの高層階に住んでいた漫画家の三浦建太郎さんを巧いこと言って追い出し、家財道具と女まるまる奪って居座っている。ワイングラス片手にヒルズの窓から見下ろす下界の眺めは最高だ。おれも昨日までは、あの地べたに這いつくばってコオロギやヒョウモントカゲモドキを捕食し、飢えをしのいでいたのだ…。だが、破滅は予想外に早く訪れた。便意を催し豪奢なトイレで便座に腰を下ろしたおれは、便器の中から伸びた巨大な劇画タッチの手にきんたまを掴まれ、くぐもった悲鳴を残して便器の中に消えた。
