劇場版実写「うる星やつら」のラム役のオファーを受けるべきかどうか、決めかねていたのだが、銀座のしゃぶしゃぶ屋で白鵬のアドバイスを受け、腹は決まった。銀幕で顔が知られれば、生き別れの母が名乗り出るかもしれないと横綱は言った。おれに生き別れの母などいないのだが、要は背中を押してくれる言葉が欲しかっただけなので、適当に相槌を打って、トイレに行くふりをして帰った。おれの裏切りに激怒した横綱の大号令で、相撲協会の全力士を敵に回し追われる身となったことを知ったのは、映画の製作発表記者会見で記者席に座っている報道陣が、よく見ると全員チョンマゲをつけているのに気付いた時である。もう、この日本に居場所はなかった。
