屁の浮力で飛行して太平洋横断というアイディアは、エコの観点からも環境省やメディアにも好意的に受け止められ、盛大な出発セレモニーを開いてもらったおれは、調布の飛行場から屁の推進力でフワリと宙に浮かび上がった。そのまま気流に乗って東京上空をゆっくりと北東へと進んだが、しょせん屁の蓄積量などたかが知れているわけで、ハナから太平洋横断など考えていなかったおれは、マスコミ各社のヘリやドローンの追跡を振り切り、電子迷彩バリアーによってレーダー網からも姿をくらませ、無事に成田空港近くのローソン駐車場に着地した。このまま偽名でエアアジア便に乗り、明日の朝にはバンコク入りだ。旅行記の印税前払金から映画化をあてこんだ諸々の支度金まで含め、数十億円の金を掴んだおれは、コレで一生のんびり暮らせるとほくそえんだが、バンコクまで追ってきた白鵬の食事代は一日数千万円にのぼり、ほどなくおれは一文無しになった。白鵬は日本に帰って相撲を取り続け、おれは異国の地で野垂れ死ぬまで物乞いをして暮らした。
