「ことしは遠藤の奴をダマす方法はもう考えてあるかネ？」梅崎春生先生から、くぐもった声の電話がかかってきたのは、大型連休に入った天気の良い日の午後だった。エイプリルフールはとうに過ぎてしまったこと、そして梅崎先生も遠藤も亡くなって久しいことを説明して差し上げたが、もうおれの話は通じていないようで、先生は壊れた蓄音機のように「もう考えてあるかネ？」と繰り返すのだった。先生が鬼籍に入られてからの長い長い年月に打ちのめされ、おれはiPhoneを握りしめてソープの待合室のソファに沈み込んだまま、起き上がることができなかった。
