荻窪駅の大きな改札の真っ正面に正座してキャップを置き、物乞いをしているおっさんを見ました。11年前に京都の三条大橋の上で見た物乞いは頭からすっぽりと布を被って姿を隠し、「めぐんでください」と記した紙と木箱を置き、微動だにしなかったが、このおっさんは周囲を伺いながらヘコヘコとお辞儀を繰り返していた。蔑まれたり怒られたり捕まったりすることに対する諦念が、まだまだ固まっていないように思われた。これも続けていれば、植物のようにだんだん動かなくなって…と思い、そこで筒井先生の「佇む人」を思い出した。すると目の眩むような強烈な性欲が突き上げ、庭に飛び出してヒメリンゴの幹に陰茎を突き立てると、ケイレンするように腰を動かしながら、獣の咆哮を夜空に轟かせた。
彼の行方は、杳として知れない。
