渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

おとこの遊艶地

トルコの帝王と呼ばれ、雄琴の夜を支配した渡辺電機(株)さんだったが、それも今は昔。不景気ですっかりネオンも煤けた特浴街の闇から闇へ、ゴキブリのようにコソコソ四つん這いで移動しては、トルコの裏口のゴミ捨て場で食べ物を漁る、腐臭を放つ生き物。人生もこれまでと観念し、この世の名残にと一張羅の裃袴姿で訪れたコミックマーケットなる同人誌即売会で、偶然手にしたエロ同人誌が、劇的に彼の運命を変えた。水を得た魚のようにアニメキャラクターの裸体画集を買い漁り、同好の士とブヒブヒ語り合う内にいつしかその体躯は膨張し、分厚いメガネに乱雑なフケだらけのポニーテールの肥満体に変化したそのオールドスクールなオタク姿は、コミケット会場の混雑に紛れると、もう全く見分けがつかなくなり、それきり二度と彼を見かけることも無かった。

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無法の世界

大嫌いないじわる遠藤に金星を献上してしまった横綱は、ゲン直しにアダルトビデオを鑑賞しようと、両国国技館裏にある馴染みの個室ビデオ店を、レイバンのサングラスで変装して、訪れた。いかな変装をした処で、一目見れば横綱と分かる大銀杏の偉丈夫たが、店員は慣れたもので、あくまで一般客と変わらない最小限のやり取りに留めた接客で、横綱のプライヴェートなひと時に不粋な邪魔をする事は無かった。静かな店内で好みの作品を選び、個室のソファに深々と腰を下ろし、ほっ、と一息吐き出し、リモコンの再生ボタンを押す。プロジェクターの画面いっぱいに映る、快晴の大海原を背に前歯のない口で笑う、ふるちんの渡辺電機(株)さん。横綱ぁ、カネ貸してくんねえかな。エロ同人やってっと、いろいろカネかかんだよな。最後まで聞かずに液晶画面を叩き割った横綱の、怒髪天を突き、天を裂き地を割る咆哮が、夜の両国の街に轟いた。

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チェルシーガール

幼い頃、漁に出たまま帰らなかった父を待ち続け、岬に立って日本海の荒波を眺めて育った渡辺電機(株)さんは、やがてネットに触れると父への想いも次第に薄れ、アニメやユーチューバーなどのサブカルチャーに感化され、東京へ出て行った。ユーチューバーとして名を馳せ全国の小中学生の憧れの的なとなり、巨額の収入を得て家賃30万のマンションに住むようになった渡辺電機(株)さんの元へ、ついに父が還って来た。日本海に沈んだ船からロシア漁船に助けられ、そのまま帰国することなくロシアから東欧、ドイツ、フランス、イギリスを経てニューヨークに渡った父は、いつしかアンディ・ウォーホルのファクトリーに出入りして、ミステリアスな美女としてカルトな人気を集めていた。驚きのあまり口をパクパクさせる渡辺電機(株)さんの前に、ブランドのロングヘアで黒のタートルネックに身を包んだ父が現れ、何か言おうとしたその瞬間。轟音とともに大地が割れマグマが噴出し、高熱の溶岩流と有毒ガスで、地上の生物は死に絶えた。再び渡辺電機(株)さんがこの世に姿をあらわすまで、56億年の時を待たねばならなかった。その時、父は現れるのか。それは、神にも分からないのだ…。

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ガクエン無頼

野球推薦で特待生入学しながら、一年の春に肩を壊して三年間を棒に振った渡辺電機(株)さんへの風当たりは強く、担任の陰湿な仕打ちや同級生たちの陰口やシカトは日常茶飯事、下駄箱にダイナマイトが仕掛けられ、給食には毒を盛られた。だが、生来の陽気さから渡辺電機(株)さんはこれらの仕打ちに気付かず、シカトされても返事をされるまで大声で叫び続けて教室の窓ガラスを破砕し、給食の牛乳パックに仕込まれたガソリンを一気飲みして、炎を噴いて校舎を全焼させ級友の大多数の命を奪った。ようやく肩も癒え、東映フライヤーズにドラフト3位指名を受けプロ入りした頃には、学園は瓦礫の山と化し、誰一人生き残っていなかった。ただ一人、モンゴルからの留学生だった相撲部のエースを除いて…。のちに世間を震撼させた、後楽園球場マウンド横綱爆裂四散事件の発端であった。

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歌舞伎町の風雲児

歌舞伎町の外れで小さな熟女イメクラ「感汁♡奥さま」をひっそりと営んでいた渡辺電機(株)さんが何を思ったか一念発起、電子コミック販売サイトの運営に乗り出したのが、石原都知事による歌舞伎町浄化作戦が吹き荒れた2003年のこと。Kindleなどの電子書籍全盛の今見れば先見の明あり、その慧眼には只々感服するばかりだが、なにしろインターネットどころか、ダイヤル式の黒電話すら一部の富裕層にしか普及していなかった時代。人々は彼を嘲笑い、誰もが小ぶりな陰茎を彼に押し当て、囃し立てた。その時ね、ワタシは思ったンですヨ。何くそ今に見てろ、マイコンで漫画を読む時代が、きっと来るぞ。ニッポン人の何くそ精神、なめンじゃねえぞってネ。来るべきIT時代を夢見て邁進した渡辺電機(株)さんだったが、志半ばに、病に倒れた。人々に押し当てられた小ぶりな陰茎は、彼の肉体を確実に死へ追いやっていたのである。おれの悲劇のことは、忘れてほしい。でも、おれの名前は、覚えていてくれ。そう言い遺した渡辺電機(株)さんだったが、現在は男性向け艦これ二次サークルを運営、地元の即売会で人気を博し、なかなかの鼻息という。

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日本印度化計画

ネットで話題の人気カレー店の前にできた長蛇の列を嘲笑い、あれ見よ情報に踊らされる愚か者の群れなどと嘯き、彼らに向けて小ぶりの陰茎を振り回して囃し立てた渡辺電機(株)さんだったが、極寒の真冬の東京で下半身を露出した代償はあまりに大きく、その夜彼は高熱を発して寝込んだ。翌日になっても、翌々日になっても熱は引かず、這いつくばるようにして駆け込んだ近所の医者の見立てで、不治の病「ルリ病」との診断が下された。それからの日々を渡辺電機(株)さんは、日に日に透明になって行く己の身体と向き合いながら、長年集めた古今東西のエロ同人誌のページで、千羽鶴を折って過ごした。やがていつの日か、卑猥な千羽鶴の山に埋もれた水晶の立像と化した彼を見つけた者は、何を思うだろうか。それは彼が生きている間、ずっと毎日カレーを届けてやっていた件のカレー店主だったのか、それとも彼のエロ同人誌コレクションを盗みに入った不届きなおたく族だったのか、それは誰にもわからない…。

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ケーキ!ケーキ!ケーキ!

今、パティシエがモテる!思い込んだらテコでも考えを変えない渡辺電機(株)さんが、関脇で二場所連続11勝4敗、いよいよ大関挑戦待った無しの大事な場所を投げ出して、パリでパティシエ養成講座を受けるため、成田を飛び立った。だが、復讐に燃える残忍な殺人配信者匕カキンは、決して諦めなかった。パリを舞台に、最後の決戦の時が近づいていた…。

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