渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

赤いペガサス

1988年シーズン半ば、アレックス・ザナルディの代わりにレイトンハウスのシートを得た渡辺電機(株)さんは、資金難のチームに金に物を言わせて割り込んだと批判を浴び、3位に食い込み表彰台に上ったスペイングランプリでは、1、2位のパトレーゼとナニーニにシャンペンの代わりに尿を浴びせられるなど、風当たりの強いシーズンを過ごしたが、終わってみれば優勝2回準優勝3回で、ポイント数で僅かにセナを上回り、チャンピオンを獲得した。それから30年後、行列整理の人員確保に、「最後尾」プラカードや売上金運搬用ジュラルミンケースの準備にも余念なく、新刊3種類各5千部刷って臨んだ夏コミで、新刊既刊合わせ一冊も売れない屈辱を味わうことになろうとは夢にも思わず、F1レーサーとして絶頂にあった渡辺電機(株)さんの、人生のごく短い絶頂期の話である。

続きを読む

サンダとガイラと優しい奴ら

新しいドラえもん映画が明らかにおれのマンガの盗作で、藤子不二雄からガッポリ慰謝料をせしめてやるべく、ニセの手紙でヤツを東京におびき寄せることにした。親切なフリをして、上京時のアドバイスや励ましの言葉を並べ立て、感激させた。バカが、せいぜい夢を抱いてやってくるがいいさ、オノボリ野郎が…。翌朝。窓の外に分厚い雲が広がる曇天の東京。もの悲しげな野太い遠吠えのハーモニーが、トキワ荘の窓を震わせた。東京タワーをも凌駕する毛むくじゃらの巨人が2人、地響きを立てながら、こちらへ向かって来る。ヒイッ許してくれ!恐怖で失禁しながら逃げ惑う渡辺電機(株)さんを、2人の巨人は、あーあーと赤子のように泣きながら、どこまでも追いすがった。

続きを読む

大ぼら一代

近所の小学生から「おはようチンポおじさん」と呼ばれ、笑い者になっていた渡辺電機(株)さんにも、夢はあった。まんがで一発当てて、アイドルとハワイ旅行を…。だが、毎朝通学路で下半身を露出して喜んでいる今の自分と理想の乖離には気付いており、将来は堅い職に就けるよう、社労士の資格取得を目指し勉強も続けていた。「おはよう!」今朝も元気に声掛けを欠かさない、渡辺電機(株)さん。背後に、非情な警官が近づいて来た。全ての、終わりだった。

続きを読む

不失者

渡辺電機(株)さんのサインを偽造してヤフオクで売り捌き、巨万の富を得ていた不届き者がいたが、どうやって調べたのか、ある日自宅に渡辺電機(株)さんの取り巻きのヘルズエンジェルスが押しかけ、ボコボコに袋叩きにされたという。白いステッキをつき、仁王立ちする渡辺電機(株)さんを振り返り指示を仰ぐ、屈強の男たち。「オヤッサン」「まだや。肋骨の二、三本もヘシ折ったれ」クソガキが、なんちゅうことすんのや。このわしをなめくさってからに…。時は流れ、西暦二万五千年。人々は生身の肉体を捨て、情報の海を行き交うデータの集合体となっていたが、袋叩きはまだ終わっていなかった。まだや。まだ、序ノ口や。なめとったら承知せえへんど。巨大に膨れ上がった終末期の太陽が、ゆっくりと東の空に上ろうとしていた。

続きを読む

トルコの夜

昭和48年4月、東大を首席で卒業した渡辺電機(株)さんが吉原「トルコ龍宮城」に奉職した際には、天下の学士さまがトルコのボイとは最高学府も地に堕ちたものよと笑いものになり、実話雑誌に赤門の面汚しと面白おかしく書き立てられ、東大卒業者親睦会から除名された。それから45年。トルコ風呂はソープランドと名称を変え、渡辺電機(株)さんは稀代のソープ王として富を築き、政財界から芸能界スポーツ界にまで人脈を広げ、軽く指を鳴らすだけでヒトラー髭を生やした安倍総理がゴリラの軍隊を率いて駆けつけるまでに出世していた。そんな学歴社会の頂点たる渡辺電機(株)さんに、無学文盲のアフリカ黒人ながらコツコツ叩き上げた刻苦勉励の人、横綱白鵬が単身戦いを挑む。純白の学ランに決死の鉢巻。東スポから切り取った5000円割引券を手に、吉原にそびえる地上999階建ての「ソープ龍宮城」のエントランスに、静かな笑みをたたえ乗り込んで行った。

続きを読む

転がる石のやうに

仕事部屋の入り口脇でカナヘビがチョロリと壁の下へ逃げ込むのが見えて、まあハチュウ人類のスパイなのだが、おれを見張ろうったって思考バリヤーの前では無力よ。ハァッ!!「荷物でーす」突然背後からバリヤーを破る声に驚いて振り返ると、佐川のシャツを着た半魚人が四角い武器を構えておれを狙っている。たた、助けてくれィッ!!命じられるままに助命嘆願書にサインし、アマゾン帝王からの賜り物を頂戴し、土下座と万歳三唱で、半魚人にお帰りいただいた。賜り物は、おれが欲しかった馬の生首1/1モデルだった。本物みたいに生臭く柔らかく、濡れてる。いい買い物したなあ!今日はテレビで安倍総理が言うおれの悪口も、ちっとも気にならない。そうだ、明日は総理に馬の首をみせてあげよう。ああ、楽しみだなあ。

続きを読む

ゴムと王子

右や左の旦那様、哀れなコジキにお恵みを…。そう言って、小銭の入ったいなばタイカレーツナの空き缶を捧げ持ちやって来た、変わり果てた横綱の姿を見て、真っ先に囃し立てたのは、誰あろう親友の渡辺電機(株)さんだった。やあい乞食横綱やあい。ヨウヨウ、そのチョンマゲ10円で買ってやるよ。罵声を浴びツバを吐きかけられても横綱はヘラヘラと笑みを浮かべ、物乞いを続けたが、そのはらわたは煮えくり返っていた。チキショウ、モンゴルに帰りゃ仲間の元相撲取りたちが黙っちゃいねぇぞ!だが、おれには帰る金もありゃしねえ。ああ、腹が減ったなあ…。それが、ほんの半月ばかり前のこと。翌日から始まった大相撲夏場所を全勝で制した横綱は、多額の懸賞金と優勝賞金で、瞬く間に大富豪に返り咲いた。えへへあのう、お肩をおもみしませう。猫なで声で近づいて来た渡辺電機(株)さんの薄汚れたジャージの襟首をつまみ上げた付け人が、ものも言わずに支度部屋の窓から投げ捨てる。悲鳴が遠ざかっていき、はるか下の方で肉の潰れる音がした。だが、また一ヶ月もすれば、立場は逆転するのだ…。

続きを読む