やあいトルコ嬢の息子やあいと囃し立てられ、泣きじゃくりながら友人達を追いかける渡辺電機(株)さん。一念発起して勉学に励み、苦学の末に外務省に奉職、遂に念願かなってトルコの日本大使館員となった。その時になって初めて、いわゆるトルコ風呂がトルコに無いこと、そしていつのまにかトルコ風呂がソープランドと改称していた事を知った渡辺電機(株)さんは、その日の夜に自室で静かに腹を斬り、果てたという。
続きを読むさよなら渡辺電機(株)さん
持ち込みに訪れた出版社で、完全に新人と同じ応対をされ、ロビーで編集者を待ちながら、唇を噛んで屈辱に身を震わせる、ベテラン作家。チクショウ、天下の渡辺電機(株)だぞ!今行きますと言ったきり、一向に降りてくる気配のない編集者を待ちながら、渡辺電機(株)さんは、ロビーで長い年月を過ごした。やがて雑誌も出版社も潰れ、跡地がコンビニになり、それも潰れて外人向けゲストハウスとなり、それも老朽化して取り壊そうかとの話が出る頃、軒下で寝泊まりしていた渡辺電機(株)さんの命もまた、最期の時を迎えていた。ボロ布のように横たわる死骸が清掃業者の手で撤去されようとしている背後で、お待たせしましたあと能天気な声を出す編集者が、キョロキョロ辺りを見回して渡辺電機(株)さんを探す姿が現実なのか幻なのか、もう誰も気に止める者は無かった。
続きを読むGenocide 三丁目の夕日
救急車をタクシー代わりに呼ぶ不届き者が問題になっているが、そういうのが表面化したのが最近というだけで、昔は無知と行政への甘えもあり、もっととんでもないのがいたに違いない。おれも思い起こせば、人気サークルの新刊が売り切れるだの、ウォシュレット付きのトイレまで走ったらうんこが間に合わないだの、実にくだらない理由で「コーモリさん助けて」などと乙女の涙を流し、とうとう黄金バットを本気でキレさせた。どくろのお面を脱ぐと、あんなおっかない顔してはるんやね。あと、怒るとめっちゃ早口になんねん。おもろ。などと笑っていたが、訴えられた損害賠償請求がシャレにならない金額で、人生詰んだ。今でもバイト掛け持ちでコツコツ払っています。
続きを読むクレイジーヤクザ2018
わしゃあこういうもんじゃがのう。そう言って男が小指の欠損した手をひらひらさせても、渡辺電機(株)さんは動じるどころか、おれはこういうものだ。そう言って、小指以外の全てが欠損した己の姿を、相手の男に見せつけた。小指だけの姿の渡辺電機(株)さんを驚愕の表情で凝視していた男は、やがてぽつりと呟いた。…わしの小指。その小指は、男の欠損した指の跡に、ぴたりと一致した。わしの小指じゃ!吸い付くようにくっついた小指が自在に動くのを確認し、男は感極まって泣き出してしまった。渡辺電機(株)さん、ありがとう。またひとつ、いいことをしましたね。お釈迦様は今日も、極楽浄土から渡辺電機(株)さんをじっと見守っていました。
続きを読む男と女の一万年
ポルノで男と女がやってるあれ、やってみたいんすよ。という横綱の頼みに、じゃあ相互フォローのエーブイ監督紹介してやんよと安請け合いし、大喜びの横綱のおごりで寿司をたらふく食って帰ってきた渡辺電機(株)さんは、実はハナからSNSなどやっておらず、それどころかスマホもPCも持っていないので、さてどうしたものかとゴミの積み上がった四畳半の真ん中にあぐらをかき、黙想した。雑念を捨て考えよ、渡辺電機(株)。目を開いた時、部屋の壁は消え、辺りは石塊の散らばる荒野と化していた。立ち上がると、視界のはるか先に、かなりの年月を経たと思われる都市の残骸が、風に吹かれて朽ちていた。瞑想状態で1万年の時を過ごした渡辺電機(株)さんは、どうやら危機を脱したのを悟った。横綱も、歴史の塵か…。もおー、待たせすぎー!振り向くと、不機嫌に頬をふくらませた横綱が、パンパンの股間を押さえて地団駄を踏んでいた。
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