渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

王の道

庭で巨大なナメクジを見てしまい、すっかり気分を害してしまった渡辺電機(株)さんは、その日の公務をすべてキャンセルして、日がな一日ユーチューブを見て過ごした。翌日は王宮の広場で国民にメッセージを伝える式典の日であったが、これも渡辺電機(株)さんは欠席し、さらに次の日の大臣任命式も、隣国の皇太子の歓迎セレモニーも欠席した。革命は、その夜に起きた。勉強部屋の鍵をこじ開けて入ってきたお母さんにスマホを取り上げられ、返せよババアと立ち上がったところを父親に張り倒され、渡辺電機(株)さんは泣き喚きながら、茶の間へ引きずられていった。その場の親族会議で、明日から叔父さんのネジ工場で働くことが決まった渡辺電機(株)さんは、お母さんにバリカンで伸び放題の髪を刈られながら、いつまでもめそめそ泣いていた。

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Wish you were here

トルコ風呂から上機嫌で出てきたところを屈強な黒人たちに襲われ、黒塗りのリムジンに押し込まれて拉致された渡辺電機(株)さんは今、豪華な広い和室に通され、床の間に飾られたラッセンの豪華な掛け軸を、呆然と見上げていた。殿のおなり、との掛け声とともに鼓が打ち鳴らされ、小姓を伴って現れたのは、誰あろう時の将軍、徳川兼親その人であった。ヒーッ、う、上様!腰を抜かし四つん這いで退出しようとした渡辺電機(株)さんは、再び黒人たちに取り押さえられ、将軍の目の前に引き据えられた。苦しゅうない、面を上げい。ななな、なんすか。震えの止まらない渡辺電機(株)さんに、将軍は自分が渡辺電機(株)さんの漫画のファンであることを告げ、サイン入り色紙と写メをねだり、しかもあくまで渡辺電機(株)さんを先生と呼び、決して自ら上座に座ろうとはしなかった。作家としてこれ以上の栄誉はなかったが、渡辺電機(株)さんは将軍のすきを見てラッセンの掛け軸を盗もうとしたことで、全てを台無しにした。磔にされ息絶えた渡辺電機(株)さんを悲しげに見つめていた将軍は、サイン色紙を一生の宝としたという。

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フォークト・カンプフ法

フォー。2つで十分ですよ。フォー。勘弁して下さいよ。などというやり取りを経て、結局2個しかきんたまを股間に植え付けてもらえなかったハリソン・フォードだが、まぁ長い目で見れば正解だったのではないか。などと後先考えずに書き出せば、たいていどうにかなるものだが、今日は何も展開しない。あかん。今日は調子出えへんわ。あきらめてノートPCを閉じ、たまたま付け人たちが再生していた映画「ブレードランナー」の見慣れた画面に目をやった横綱白鵬は、凍りついた。アジアンマーケットでうどんをすすっているのはハリソン・フォードではなく、渡辺電機(株)さんだった。傍らの皿の上には、もぎたてのきんたまが4個、盛られていた。

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いっしょにおふろ♥

漫画界を石もて追われ、流れ流れて、最晩年には岩手県の秘境・蔦温泉の旅館で下足番としてひっそり暮らしていた渡辺電機(株)さんに、最後のチャンスがやってきた。まだ夜明け前の薄暗い露天の岩風呂で、人目を避けてカツラを取り、きれいに禿げ上がった頭を晒して、気持ちよさそうに湯に浸かっているのは、誰あろう今をときめく横綱白鵬その人であった。あのや朗、こんなハクネタを提供してくれるとは。こいつを撮って脅しにかけりゃあよ、おれもちったぁマシな生活が…。背後からそっとスマートフォンをかざして撮影しようとする渡辺電機(株)さんを振り向くこともなく、つるつるの禿頭越しに、横綱の野太い声が響く。電機さん、探したぜ。最後まで聞かず、反射的に背後に跳躍して逃れようとした渡辺電機(株)さんの身体が、大きな肉の壁にぶつかった。鶴竜。稀勢の里。日馬富士。現役横綱の面々が手ぬぐいをかけた洗面器を持ち、一糸まとわぬ裸体で、露天風呂へ向かう処だった。彼らは一様にカツラを脱ぎ、禿頭を晒していた。秘密を知っちゃったんだからさ、電機さん。稀勢の里が柔和な笑みを浮かべて肩をつかむ、柔らかく大きな手が、万力のように締め付ける。悲鳴を上げて岩風呂へ引きずられて行く渡辺電機(株)さんが、次の場所で5人目の横綱となるのは、必然の流れと言えた…。

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ロバート・ド・キャステラ

1979年の福岡国際マラソンは最後の競技場に入るまで宗兄弟と瀬古利彦の3人による史上稀に見るデッドヒートが行われた名勝負であるが、この翌年の週刊朝日の連載「ブラックアングル」における山藤章二による世相百人一首のネタにされ、「瀬古はやし 秒に急かるるゴール前 あせっても兄弟間に合わんとぞ思ふ」というパロディ句に添えられた、二人三脚で走る自分たちの滑稽な似顔絵のことを、兄弟は今でも深く恨んでいた。つまり、このおれに山藤画伯を殺れと?おそろいのジャージ姿でおれを見下ろす長身の兄弟が、息の合った動きで同時に頷く。お前なら、弟子入り志願者を装ってたやすく接近できるだろう。ユニゾンで同じ言葉を発する兄弟のどちらがどちらなのか、そもそも本当におれの前に2人いるのか、もうよくわからなかった。もし断ったら?問えば、ユニゾンで高笑いする2人。断ることは出来ない、もうお前は我々で、我々はお前なのだ。気づけば、おれも兄弟と一緒に同じ言葉を発し、同じ声を発していた。もう、鏡を見るまでもない。3人目の兄弟、宗(株)となったおれは、兄2人と全く同じ見た目となり、山藤章二殺害の旅に出ようとしていた。いや兄貴、これでは宗兄弟の仕業とバレてしまうぞ。誰か、見た目の違う者を探してこなければ…。こうして、宗兄弟はいまも増え続けている。

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フジロック3日目感想

Hey siri、チンポを見せろ。液晶画面いっぱいに映し出される、誰のものとも知れない陰茎写真に、笑い転げる渡辺電機(株)さん。ははは、おもろ。ほんまに言われるまんまやな。Hey siri、チンポを立てろ。画面がめりめりと隆起し、思わず放り出したiPhoneの中から、タケノコのように猛々しく屹立する陰茎は今や数十メートルの高さに達し、遠くグリーンステージの舞台の上からもハッキリと目視できた。演奏中だったアイアン・バタフライのメンバーが呆然と見上げる中、巨大化を続ける陰茎は逃げまどうオーディエンスを飲み込んで果てしなく膨張を続け、ついにはその重みで地球が押しつぶされようとしていた時。Hey siri、今のなし…。宇宙に響く渡辺電機(株)さんの声。0.00秒の後、全ては元通りになっていた。熱狂のグリーンステージから名曲 "In-A-Gadda-Da-Vida"の大合唱が鳴り響く中、持ち主を失ったiPhoneが、草むらの中でいつまでも画面に陰茎を映し出していた。

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フジロック2日目感想

京での乱行の果てに、土佐勤王党にも龍馬にも見放され、乞食同然の身に落ちぶれていた岡田以蔵、通称人斬り以蔵は、食べ物の香りと楽しげな音曲の調べに惹き寄せられてフラフラと、フジロックフェスティバル苗場食堂ステージにやって来た。ステージで演奏中のレッド・ツェッペリンの新加入のドラマー渡辺電機(株)さんは、観客の中で一人だけ異彩を放つ以蔵に、ただならぬ気配を感じた。気づいているのかいないのか、陽気な声で客に語りかける、ロバート・プラント。えーほな、みなさんもただ聴いてるだけなんは退屈やと思うんで、次はいっしょに歌って下さい。ほな行くで。日本を印度にー!…。満員の観衆に向けて差し出されたマイクが、以蔵の放つ居合い斬りで、縦に真っ二つに割れる。続いて、マイクを差し出す構えのまま凍りついていたロバート・プラントが、ゆっくりと真っ二つに割れ、内臓をドドドと溢れさせながら、崩れ落ちる。続いてステージが、テントが、そして大地がメリメリと割れ始め、人々はマグマの沸き立つ大地に飲み込まれて行った。阿鼻叫喚の苗場を後に、腹をすかせた以蔵は、あてもなくとぼとぼと歩き続けた。

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