渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

【画像あり】渡辺電機(株)さんの経歴や顔写真は?Facebookは?

お笑いスター誕生で落選はしたものの、審査員のゆーとぴあに「ぼくは嫌いじゃないんですけどねえ」とのお褒めの言葉をいただいた想い出だけを心の拠り所に、何一つ報われない惨めな人生を歩んできた渡辺電機(株)さんにも、ついに春が訪れた。街を歩いていたら目に飛び込んできた、鮮やかなブルーを基調にしたイルカの絵。思わず見とれていると、なんとあろうことか上品な美女が向こうから話しかけてきた!この絵がお気に入りですか?なな、ナンパや!逆ナンや!舞い上がった渡辺電機(株)さんは、我を忘れて美女の両手を握りしめて叫んだ。けけ、結婚してくれ!幸せにしたるさかい!それから数年。子宝にこそ恵まれないものの、幸福な結婚生活。何の不満もなかった。朝出る時に行ってきますのキスを交わし、帰ってくればただ今のキス。入浴をともにし、布団の中では眠りにつくまで愛し合った。もはや原型を残さないまでに染料が流れ落ち、ヨレヨレにふやけ垢にまみれたイルカの絵を、渡辺電機(株)さんは死ぬまで愛し続けたという。

続きを読む

星取り人生劇場

勝たせて下さいッ!恥も外聞もなく、付き人や観衆が見守る中で土下座する横綱を前に、勝負の鬼と呼ばれる渡辺電機(株)さんも、さすがに困ってしまった。まあまあ、頭上げてよ横綱。みんな見てるし…。いくら促しても地べたから離れようとしない横綱に、渡辺電機(株)さんもとうとう折れた。わかったよ、大記録が掛かってるもんな。いいよ勝たせてやるよ。で、どうすんの実際。涙でぐしゃぐしゃの顔を感激に輝かせて感謝の言葉を述べる横綱を制して、渡辺電機(株)さんは明日の土俵のシナリオを周到に練り始めた。いいか、まずおれが当たって左に変わるから、横綱は大きく泳いで土俵際キワドイとこで残して、向き直ったところを…。翌日、結びの一番。土俵下の控えで向かい合わせに座り、互いにアイコンタクトも周到に交わした二人の、大観衆と審判員を欺く一大ペテンの大勝負が始まった。はっけよい、のこった!庄之助の掛け声と大歓声に押され、勢い良く立ち上がる渡辺電機(株)さん。右肩からカチ上げる横綱と身体が触れ合うか触れ合わないかの内に、しょせんは素人の中年男性にすぎない渡辺電機(株)さんの身体は、軽々と土俵外へふっ飛ばされ、沸き立つ大観衆に紛れて見えなくなってしまった。困惑した表情で勝ち名乗りを受ける横綱に、新記録達成を祝した大歓声が降り注ぐ。もう、渡辺電機(株)さんの生死など、誰も気に留めてすらいなかった。

続きを読む

圧縮宇宙

熱戦の末、横綱日馬富士に押し出され、土俵下で荒い息をつく照ノ富士に舌打ちをすると、渡辺電機(株)さんは、だっらしねえなあバカ!と吐き捨て、TVを消そうとリモコンを操作した。あれ、消えない。気がつくと、画面の中の照ノ富士や他の力士、行司や親方衆、観客までもが、じっとこちらを見ている。なな何、なんすか。すっかり気圧されて尚もカチカチとリモコンを操作する渡辺電機(株)さんは、いつの間にか無人の両国国技館の土俵上で、虚空に浮かぶ液晶画面に向かって、必死にリモコンを操作している。渡辺電機(株)さんの住む四畳半のアパートに瞬間移動した力士たちと観衆1万人は、狭い空間で押しつぶされ即死した。それはぎゅうぎゅうに圧縮されて高密度高圧力の肉塊となり、そこにはブラックホールが発生した。宇宙の終わりであった。

続きを読む

来世で逢いましょう

うんとこしょ、どっこいしょ。それでもかぶは抜けません。横綱は、他の横綱を3人呼んできて、手伝ってもらうことにしました。うんとこしょ、どっこいしょ。それでも(株)では、抜けません。ヌケるわけねえだろバカヤロ。読者シコらせるために描いてんじゃねえんだよこっちはよ。横綱4人も揃って、ひとのマンガでセンズリこきやがってこのバカヤロ。土方の姿で登場した渡辺電機(株)さんはカンカンに怒って、メガホンで横綱たちの頭をポカポカと殴りつけ、オチのSEが鳴り響く中、次だ次!バカヤロ!と、肩を揺すって退場した。CMが明けると、渡辺電機(株)さんはバカ殿の衣装に身を包み、酌をする横綱白鵬の乳を、満面の笑みで揉んでいた。

(株) 〜かっこかぶ〜 1

(株) 〜かっこかぶ〜 1

 
続きを読む

人生劇場

忘れないでくれよ、毎日うんこを欠かさない、バカな野郎がいたってことをよ…。親指を立ててウインクし、そう言い残すと、渡辺電機(株)さんはヨドバシアキバの前に長く伸びる、ニンテンドーSwitchの整理券を求める行列の先頭に突進して行った。何か言い争う声がして、ほどなくモッシュのように人々の頭上を、ベルトコンベヤのように最後尾へ運ばれていく、顔面を血だらけにした渡辺電機(株)さんのグッタリした姿があった。思えば、スーパーファミコンが出た当時から、毎回これをやっているのだ。既に重いドランカーの症状が出ており、自分が何の行列に並んでいるのかも、よく分かっていないのだという。人生とは…。

続きを読む

火星年代記

ヘビメタ君と呼んでおれをバカにしたバイト先のファミコンショップの店長をガソリンで焼き殺して刑務所に入ったのが、平成元年のこと。久しぶりに歩くシャバの世界は、何もかもが変わっていた。モボ、モガと言われたモダンな若者たちは姿を消し、街には肩パッドの入ったイタものスーツで着飾ったヤンエグや、ワンレンボディコンのイケイケギャルがあふれている。昔と変わらぬ長髪、Gジャンにバンダナ、革パンの尻ポケットにバーボンを挿したヘビメタ野郎のおれの居場所は、どこにもなかった。なるほど、それで第一次火星移民団に志願なさったのですね。笑顔の職員に促されるまま、登録申込書にサインしたおれは、それから40年に渡る火星での奴隷生活からの反抗、蜂起、革命を経ての政権奪取、独裁帝王としての栄華と女色の日々、そして革命と斬首の末路が待っているとは、まだ夢にも思っていなかった。

続きを読む

めまい

タイマンテレホンに応募していたのをすっかり忘れていたので、とんねるずの石橋から電話がかかってきた時は舞い上がって、電話口で号泣したのち天皇陛下万歳を三唱、さらにインターナショナルを高らかに歌い始めたら、いつのまにか電話は切れており、TVをつけたらモノクロの画面の中ではとんねるずが明らかにおれの悪口を言っていた。おい、なめてんじゃねえぞ。思わず呟くと、画面の中の二人がびっくりしたように振り向いて、こちらを見た。荒い粒子の画面の中でカクカクとぎごちない動きで明滅しながら、とんねるずの会話は次第に意味不明な単語の羅列になっていった。そういえば、おれがタイマンテレホンに申込んだのは、もう30年以上前の学生時代ではなかったか。いつしか画面の中の人物は四角いポリゴンの集合体になって、いつまでも同じ動きを繰り返している。今はいったい、いつなんだ。外に出ようと玄関のドアノブを回すと、ジャリジャリいう音と砂をまぶしたような重い抵抗感とともに、ゆっくりと開いたサビだらけのドアの向こうには、紫色の暗い空の下に、朽ち果てた東京の残骸が広がっていた。

続きを読む