渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

網走2137

長いムショ暮らしを終え、すっかり顔なじみになった守衛に頭を下げ、門を出る。十数年ぶりに見るシャバの世界は、見渡す限りのアニメ絵の看板、ビラ配りのメイド、そして何億人ものキモオタの群れであった。全世界がアキバ化してしまったというのは、本当だったのか。その通り、待ってたぜ電機さん。 ほらー!出たよ白鵬!と思って振り返ると横綱の姿は無く、それはアニメ看板の中の萌えキャラが、おれのうなじに刻印されたバーコードから情報を読み取り、話しかけてきたのだった。みんな、どこへいってしまったのか…。

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ジャングルへようこそ

京都は三条陰茎小路上ルの古民家を改造し、和風カフェを始めた渡辺電機(株)さんだったが、契約書にあと3枚アルバムを作りツアーをする条項が残っており、開店前に急遽アクセル、スラッシュらメンバーを店頭に召集して即興の店頭ライヴを敢行。この音源によるライヴアルバムがバンド30余年の歴史における最高傑作となるのだから、ロックは本当に理屈だけでは分からない。

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マニフェスト

このたび私こと渡辺電機(株)が板橋区長に立候補致しましたのは、ひとえに区政の腐敗、公共事業の停滞、治安の悪化に、これ以上既成政党の手に任せてはおけないとの思いに至ったからであります。来たる区長選では、どうかこの渡辺電機(株)に力をお貸しくだ。  思わず言葉を飲み込んで、おれは聴衆の1番後ろに陣取る大男に目が釘付けになつた。現区長の横綱白鵬が、憤怒の形相で仁王立ちしている。恩を仇で返すのかい、電機さん。マイクを投げ捨てておれが逃げ出すのと同時に、横綱が超躍した。絶対逃さへんで!板橋の貧民街の屋根伝いに走りながら振り返ると、大銀杏をプロペラがわりに空を飛び、悪鬼の形相の横綱が、どこまでも追いかけて来た。

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鋼鉄の男

人生初のサイン会の晴れ舞台で、あこがれに目をうるませ長蛇の列を作る女性ファンたちの前で、悪い編集者にカツラを剥がされ、赤っ恥をかかされた渡辺電機(株)さん。会場は一瞬の静寂のあと、大爆笑に包まれた。居並ぶ編集者も、書店員もファンたちも腹を抱えて渡辺電機(株)さんのむき出しの頭を指差し、笑っていた。全員が、グルだったのである。その中で一人、何が起こったのか理解していないのか、ニコニコしながらサインを続ける渡辺電機(株)さんに、次第に笑い声はやみ、気まずい沈黙の中に、サラサラとサインペンを走らせる音と、ファンの一人ひとりに語りかける渡辺電機(株)さんの優しい声が、響いた。で、電機さん…?仕掛け人の小島よしおが、マイク片手におそるおそる肩に手をかけると、渡辺電機(株)さんの頭は微笑んだままゆっくりと傾き、胴体から離れてゴロリと床に落ち、転がった。こ、これ機械っす!小島の叫び声が、阿鼻叫喚の怒号にかき消される。機械化人間による地球征服の、始まりだった。

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昔を今に なすよしもがな

アベ政治を許さない!だが、アベ政治だってお前を許さない!流行に浮かれてスローガンの描かれたTシャツを着て、総理官邸前でふるちんで腰をプルプルプルプルいわした動画で5億回再生を叩き出し一躍時代の寵児に躍り出た渡辺電機(株)さんだったが、その代償は大きかった。公安の影に怯えながら逃避行を続けて30年、ついに力尽き気力も萎え果て、潜伏先の北海道根室市の警察署を訪れたが、とうの昔に地球文明は昆虫人の手で殲滅されており、警察署も無人の瓦礫の山と化していた。途方に暮れ、その向かいの公園に立ち寄ると、かつて市民に愛された「不思議の国のアリス」の銅像は、頭部が残忍なカマキリのそれにすげ替えられていた。

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むちむちぷりん

突然のゲリラ豪雨に見舞われ、慌てて駆け込んだ神社の祠の中には、先客がいた。うふふふと妖艶に笑うその若い女は、雨に濡れたワンピース越しに豊満な肉体を見せつけながら、お仕事何してらっしゃるの、などと言って身体をすり寄せてきた。横綱、冗談やめてくださいよ。おれの迷惑そうな声にチェッとつまらなそうに舌打ちし、女装した白鵬は肩を怒らせブツブツ何事かボヤキながら、鳥居を抜けて雨の中を去って行った。遠ざかって行く雪駄の音が止まり、突然のブレーキ音と激しい衝突音が鳴り響いた。呆然と鳥居の向こうの気配に耳をそばだてていると、人々のざわめきやクラクションが静まるにつれ、静かな雨音の中で、ボヤキの続きと雪駄の音が再び遠ざかって行くのが、わかった。

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殺意のスナック

ホームレスに落ちぶれ餓死寸前のおれを救ってくれたママを絞め殺し、まんまと場末のスナックの店長におさまったおれは、次の日から営業形態を苛烈な暴力ボッタクリスナックに変えた。だが最初にやって来た客は絞め殺したはずのママ、それも身の丈2m近い巨大な筋肉質の身体は、200kg近いと思われた。明らかに、横綱白鵬の変装だった。そうか、昨日は生きるか死ぬかの極限状況で、おれを試したのだな。ここで引いたら、殺される。背筋を流れる冷たいものを感じつつ、平静を装う。いらっしゃい、何にします。水割りちょうだい。カウンター越しに向かい合ったおれとママに変装した白鵬は、何食わぬ顔で、マスターと客を演じ続けた。時計の刻む音が、やけに大きい。

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