渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

ワイルドでいこう

快晴のフィラデルフィア。全裸でヤマハのバイクにまたがり、市役所広場の前を駆け抜ける。チャイナタウンを抜け、橋を渡れば全米でも有数の犯罪多発地帯、カムデンの貧民街だ。高らかなエンジン音に振り向いた黒人男性の、全裸の東洋人に驚き"what !?"と叫ぶ声が、背後に吹き飛んで行く。自由の国アメリカに来て、本当によかったなァ…。幸せに浸ったのもつかの間、気がつくと周囲を屈強なヘルスエンジェルスの武装ハーレー軍団が、ビッシリ取り囲んでいる。あかん死ぬ。が、よく見ると彼らは一人残らず、全裸だった。ひげもじゃにレイバン、星条旗のバンダナをした大男が、ニッと笑いながら親指を立ててみせる。知っている。”おれのチンポはこれくらい”のサインだ。おれもはみかみながら、そっと小指を立てて返す。裸とバイクに国境なし。新しい仲間たちとともに全裸の旅は続く。だが、アメリカ本土の夜の寒さを知らなかったおれは日没後ほどなく、ハイウェイの路肩でまるまった小さな凍死体となった。

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雀鬼血風録

徹夜麻雀はウドンの汁に唐辛子をひと瓶全部ブチ込んで、真っ赤になったやつを一気に飲み干すンだ。胃袋がカーッとなって空腹も眠気も吹っ飛ぶぜ!かつてそう教えてくれたドサ健の指は、もう牌も握れないのではないかと思うほど、パンパンにふくれていた。一心不乱にロールケーキを貪り食い、その指先はクリームと唾液でぬらぬらと光っている。おい親、最後のチョンチョン忘れてるぞ。トイメンの上州虎に促され、慌てて自摸るその目はどろんと濁り、ぽかんと開いた唇からは、せわしない呼吸が漏れる。本当にこれがあの、地下麻雀界に名を轟かせたドサ健なのか…。ああん!どれを捨てていいかわかんないデブよー!半泣きでグズる野太い鼻声に、雀士たちの舌打ちとため息。なおも鼻を鳴らしながら周囲を見回し、捨てる牌が無いってことは〜?そう。上がりで〜〜〜ブ!ドサ健は、死んじゃいなかった。大騒ぎの雀荘を後にしたおれは清々しい気持ちで、夜明けの迫る新宿通りに出た所をダンプにはねられ、どこかへ飛んでいった。

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アンドロイドと娘

ゲイとオカマと女装子と全部混同して、新宿2丁目では女装したゴツい男がナヨナヨとシナを作り、オカマ言葉で嬌声を上げて群がっているものとばかり思っていた、十代の頃。成人して初めて足を踏み入れた2丁目の路上にはオカマどころか人間の姿はなく、街を清潔に保つため、殺人ロボットが動くものを全て抹殺すべく、パトロールしていた。ブロンドの巻き毛のカツラにギンガムチェックのワンピースでゴツい身体を隠し、濃いめの白粉と頬紅で完全なる美少女に擬態した還暦のおれは、とっさの機転でホウキを取り出し、即興の「街のおそうじ娘の唄」をうたいながら、ロボットたちの間をぬってアスファルトをホウキで掃き、踊り歩いた。それから20余年、二度と街から出ることも叶わず、2丁目のおそうじ娘として生涯を終えた。

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おれに関する噂

新たに劇場用映画として製作される「まんが道」で、おれを演じるのがキャメロン・ディアズとのことで、久しぶりに取材を受ける。謝礼の金一封に釣られていささか喋りすぎかと反省しきりだが、公開のおりには劇場あいさつでキャメロンとの2ショットもあり得るとのことで、スッカリ舞い上がってしまった。あわよくば漫画家としてもう一花咲かせて、長年のホームレス暮らしともおさらばできるかも?!そんな幸福を胸に、有頂天で地蔵に話しかけ続ける渡辺電機(株)さんの口元から、泡混じりのよだれが糸を引いて落ちる。スッカリ色あせ脂の染みたキャメロン・ディアズの写真の切り抜きが、木枯らしに吹かれて夜の公園の闇へ消えていった。

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遠山の金さん

八丁堀に浮かんだ土左衛門が渡辺電機(株)さんであることはすぐに判明した。外傷もなく、また日頃から渡辺電機(株)さんが貧困を苦にふさぎ込みがちであったことから、駆けつけた遊び人の松方弘樹、杉良太郎、中村梅之助、松平健、高橋英樹らに、岡っ引きの岡本信人は「こいつぁただの身投げだぜ」と、にべもなかった。遊び人たちは一様に疑問を抱いたが、誰がお白州で裁きを下すかで言い争いになり、口汚く罵り合う内に、渡辺電機(株)さんのことは忘れてしまった。岡本信人も、死体から滴り落ちた腐水の付着した道端のタンポポを食い、その夜から高熱を発して寝込んだ。土左衛門は捜査もうやむやの内に荼毘に付され、無縁仏として橋の下に葬られ地蔵を建てられたが、度重なる道路拡張と護岸工事で遺失して、今では覚えている者もいない。渡辺電機(株)さんも変わらず貧困に苦しみ、ビフテキを食う金にも事欠いたという。

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ヨネザアド物語

米沢駅前のヨークベニマルの向かいに「京のお惣菜・渡辺電機(株)」を開いて、京のおばんざいと放射性廃棄物を売ったら、皆何を勘違いしたのか、おかずのついでに一品、放射性廃棄物を買っていく客が後を絶たない。こりゃ死人が出る前に店を畳んだほうがいいかと構えていたら、死者が出るどころか街のあちこちから「家の風呂がラジウム温泉になった」「レントゲンいらずのガイコツ透視能力が身についた」「火を吐いた」など感謝の声が相次いだ。こうして店は繁盛の一途をたどったが、「わが町の銘店」として山形日報に取り上げられてネットで炎上したのをきっかけに国際問題となり、とうとうソ連の核ミサイルを打ち込まれて、店が丸焼けになった。覚えてろッ!!

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XYZマーダーズ

主にゴキブリやネズミの駆除を申し受けている我が社に、久々に人間駆除の依頼が!高くつきますぜと値踏みするように客の顔を見据えると、金に糸目はつけんよと微笑む。前金で、50万渡しておこう。なんたら信頼のおけるクライアントであることか。助手と二人、最敬礼でお見送りすると、さっそく仕事にかかった。ターゲットが現れるという大相撲宮城野部屋の土俵にネズミ取りとゴキブリホイホイを大量に仕掛け、バットとフライパンを手に、物陰で待つことしばし。今朝も誰よりも早く朝稽古に現れた横綱白鵬が、鼻歌混じりに大量のネズミ取りとゴキブリホイホイを次々踏み潰しながら、一直線におれたちの方へ向かってやって来た。

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