渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

おれは誰だ

おれの服を着た知らないやつが、実家で親と一緒にモリモリめしを食っていたので、誰だテメーと怒鳴り込んだところ、普通に親が警察を呼び、おれはパトカーに押し込まれて連行された。ねえおまわりさん、あいつは偽者なんですよ。運転席の警官に説明するも、反応がない。無言でハンドルを握り正面を向いた表情は、闇に紛れ読み取ることはできない。おいお前、警察じゃねえな。おれをどうする気だ。お迎えに上がりました、皇子。いつしか正体を現した人間大のナメクジが、うやうやしく言った。皇帝は余命幾ばくもございません。ひと目、お会いになって下さい。そして、皇位継承の儀式を行わねばなりません。いや人違いじゃないすか、大体おれナメクジじゃねえし。ねえ。ちょっと!おろせよ!おろしてくれ!

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For Young Moderns

家に来る借金取りや特高の刑事は全て殺して床下の浅瀬に沈めているのだが、最近ではおれが死体を投げ込む予感を魚なりに感じるのか、来客がある前には必ず、床下でうなぎの群れがドシャバシャと激しい水音を立てる。今夜も夜更けに床下の水音で目覚め、静かに布団を人型に盛り上げて押し入れに潜み、匕首を手に来客を待った。足音もノックの音もなく、いきなり激しい爆発音とともにブチ破られる玄関の引き戸。ガラスが飛び散り、もうもうと立ち込める煙の向こうに、猫の死骸の頭部を口にくわえたしょこたんが、目玉をぐるぐる回しながら仁王立ちしていた。うなぎのエサになったのは、おれの方だった。

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機械化人都市

20年ほど前によく体験談を投稿していた「人妻のエッチな告白」系のサイトが、まだアーカイヴが残っていることが判明。削除要求のため連絡を取ったが、主催者はすでにこの世を去り、自動引き落としのサーバ料金が今後も半永久的に支払われ続けて行き、サイトも存続し続けるとのこと。人妻時代のおれの悪行をなんとしてもウェッブ上から消去せねば!光学迷彩に身を包み、決死の思いで中央サーバセンターに侵入。巨大な中央管制室は無人で、無数の液晶モニタが壁面を覆い尽くしている。ひときわ巨大な画面に、いきなり人妻時代のおれの顔が映った。「侵入者ヨ、速ヤカニ立チ去ルガヨイ。」厳かなマザーコンピューターの声に、激しいアラート音。「ヤメロ。ヤメテクレ…」ロボット警備兵がなだれ込んでくる中、おれはマザーコンピューターの前面を覆う無数のパネル群に、鉄パイプを振り下ろした。

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函館トワイライト

函館市内を一望する展望台が人気の箱館山は、ロープウェイで頂上まで往復するのが一般的だが、ロープウェイ乗り場の脇から徒歩で頂上まで行く小径もあって、おれはそこからのんびり木立の中を歩いていくのが好きだ。一応遊歩道として整備されてはいるものの、あまり人通りが多くないせいもあって、野生のリスや珍しい小鳥を至近距離で拝むこともできる、穴場スポットだった。そう、昨日までは。うっかりそのことをホリエモンに喋ってしまった、おれのミスである。底意地の悪い彼が、その日の内に札束を積み上げ、箱館山一帯の土地を買い上げた。おれの大好きだったあの小径が、一夜にしてドンキにマクドにブックオフに、無数のコンビニ、インド人カレー屋、ベローチェ、ケータイショップ、ケバブ屋、風俗案内所、フィリピンパブ、アニメイトが立ち並ぶ繁華街へと変貌してしまったのである。賑わう雑踏の中、ダイソーの軒下で踏みつけられ干からびたリスの死骸を拾い上げ、おれは静かに泣いた。

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夜の訪問者

水戸黄門役のオファーが来た時、さすがに断ろうと思った渡辺電機(株)さんだが、助さん格さん役がサミュエル・L・ジャクソンとジョン・トラボルタと聞いては、引き受けないワケには行かない。二つ返事で引き受けた。さらに、うっかり八兵衛にスティーヴ・ブシェミ、かげろうお銀役にはユマ・サーマンと聞いて、渡辺電機(株)さんは感激のあまり、泣き出してしまった。TBSの者ですが、お迎えに上がりました。出演承諾の返事のメールを送信した瞬間に背後から声がしたと思うと、渡辺電機(株)さんの身体は巨大な何かに担ぎ上げられ、表に止めてある牛車に乗せられた。今から局で出演者の顔合わせがありますので、ご出席下さい。背中越しに話しかけてきた御者の声はか細く、合間にカタカタと歯の鳴る音がした。あの、トラボルタとかジャクソンも…? はい、全員お待ちです。さあ参りましょう。頬かむりをした御者の横顔が、一瞬だけ月明かりに照らされ闇に浮かび上がり、歯をむいて笑う骸骨の眼窩に光る目玉が、くっきりと見えた。

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君の名は

お前は柳の下の幽霊みたいに生気がないから、柳ユーレイだ。お前は大阪から百万円持ってきたから、大阪百万円。東国原はそうだな、お前はそのまんまでいいだろう。で、お前はあれだ、ツラがまえも性根も最低のゲス野郎だから、ゲスラだ。たけしの命名を受け、軍団員たちはその珍妙な芸名で、それぞれの長いタレント人生を送っていくことになる。ただ一人、ゲスラと命名された渡辺電機(株)さんだけは、どうしても納得できなかった。いくら殿からいただいた名前でも、ゲスラと名乗るなど、親にも申しわけないし、タレもカケないし、おぜぜも儲からねえでやんしょゲスゲスゲス!出っ歯をむきだして、甲高い声で笑った。女のあそこを叩いてみれば、文明開化の音がする♪ と最低の替え歌を歌い、腰を前後に動かす下品な踊りを舞いながら去って行き、そのまま芸能界を離れた彼の行方は、誰も知らない。

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禅智内供を嗤ったな!?怒気を放つ目、凶暴な笑みを浮かべる口元、そして象の陰茎のようにそそり立つ巨大な鼻!デカバナ坊主、和尚の鼻ちんぽ、などと嘲笑し陰口を叩いた村人は、一人残らず禅智内供の暴力の前に命を奪われ、村は無人の廃墟と化した。村人の血で真っ赤に染まった小川の辺の道を、返り血を浴びニタリニタリと笑いながら、巨大な鼻を揺らして歩く禅智内供は、都へ出ようと決心した。いつまでもこんなクソ田舎でバカにされてたまるかよ!高笑い。そのとき、ふと鼻にむずがゆさを覚えたと思った次の瞬間。激烈な痒みに襲われ、禅智内供は悲鳴を上げ、巨大な鼻に爪を立てばりばりと力任せにかきむしった。鼻の表面の無数の毛穴が盛り上がり、白く巨大な蟲が、肉を食い破り次々と這い出してきた。のたうち回る禅智内供の身体は、見る間に白い蟲の群れに覆われ尽くした。蟲が徐々に這い出して村道の草むらへ散って行き、ついに一匹残らずいなくなった跡には、もう何も残っていなかった。

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