渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

日本サッカー興亡史

なンだよ!おれが青春18きっぷ使ったらいけねえのかよ!声を荒げる金髪の中年男性はまぎれもなく、あのサッカー界の至宝・三浦知良選手だった。てめえJリーガーなめてんのか!いやお客さんJリーガーとか関係なくね、これ去年の使用済みのやつでしょ。運転士の、低く抑揚のない声。知らねえよおらぁ!んだよ離せよ!只見線の森に囲まれた閑静な無人駅に響く、巻き舌の怒声。ワンマン車の運転士に突き飛ばされ、雑草混じりのホームに転げ落ちた三浦選手が何か言う間もなく、ドアが閉められた。音もなく小雨の降る中、車両はゆっくりと会津川口方面へと動き出した。くっそ覚えてろよ。高級そうなコートについた砂を払い落としながら起き上がった三浦選手の前に、3人の男が立っていた。百姓か人足か、屈強な体格で裾をからげ、傘を目深に被り頬かむりをした男たちは、低い声を揃えて、奇妙な節回しの唄を歌っていた。♪よいさのまかしょ、えんやこらまかせ。なんだこいつら?困惑する三浦選手を軽々と担ぎ上げた3人は、なおも歌いながら、ずんずんと森の中へあるき出した。♪よいさのまかしょ、えんやこらまかせ。おい待ってくれ!おろしてくれ!三浦選手の悲鳴と3人の歌声が、森の奥深くへ遠ざかって行った。

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大人の流儀

ゾンビつったって民族によって食習慣が違うのに、肉ばっかり食うのはおかしい!畑を荒らしてキャベツやトマトを食うゾンビだっているんじゃねえのかよ!ゾンビに襲われた渡辺電機(株)さんはそう言い残して息絶えましたが、ゾンビになってからは主にイオンモールをうろつき、ビスコやぷっちょ、ピーチョコなどの子供向けお菓子をむさぼり食っているそうです。

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深夜プラス1

鰻屋から流れてくるウナギの匂いをおかずに飯を食う落語にヒントを得て、肛門の匂いを嗅げば、うんこをする代わりになって我慢できるはず!相変わらずキレ味鋭い着想に我ながら感心して、ユザワヤ吉祥寺店のレジ横で、ヨイショッとケツを出して己の肛門に鼻を近づけようとしましたが、当然そこまで身体が柔らかいワケもなく、すってんころころ、前のめりに転がって吉祥寺キラリナの階段を9階から1階まで転げ落ちてしまいました。でも、転んでもただでは起きません。肛門がムリなら、くさやの干物があるじゃない!これを聞きつけたくさや業界が黙っているはずもなく、苛烈なお叱りを受けたのは、皆さんご存知の通りで…。陳メ、またやってしまいました。(内藤陳:談)

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まむしの兄弟

ゲーセンの主人から電話。アフターバーナーの筐体を占領してめしを食っている奴が、言うことを聞かないとのこと。舎弟の白鵬を連れてさっそく店に顔を出すと、いつもは大賑わいの店内に客はまばらで、アフターバーナーの周辺には血溜まりが広がり、動物の毛が散らばっている。嫌な予感を感じつつ筐体の中を覗くと、漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の作者が犬の死骸にむしゃぶりつきながら、きょとんとした顔でこちらを見上げていた。その目は白く濁り、顔の皮膚が溶け落ちて奥歯がむき出しになっている。店長、もうこれゾンビんなってんじゃん。そうなんですよ、これじゃ商売上がったりで…。なんで火葬しねえかな。やっぱこういう人だから、ひょっとして生き返るかも??とか思っちゃったのかな。この場で撃つと店がさらに汚れるので、ブルーシートにくるんで白鵬に担がせ、近所の河原でガソリンをかけて焼いた。風に乗ってどこからともなく、カエルたちの歌うゲゲゲの唄が、聞こえてきた。

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水中からの挑戦

TBSからメールがあり、ウルトラセブンのオリジナル怪獣コンテストに、おれの作品が入賞したとのこと。たしかに応募はしたが、なにしろ50年近く前の幼少の頃の話であり、当時のスタッフが残っているはずもない。新手の詐欺ではないかと身構えたが、フグ怪獣フグゴンとかいうのは、確かに幼いおれなりに一生懸命考えた自作の怪獣であり、メールに添付された画像は疑いようもなく、福岡県飯塚市在住の幼児であったおれが描いたものだった。懐かしさのあまり、号泣しながら赤坂のTBSにスッ飛んでいくと、地下鉄の駅を出て地上に上がったそこには、見渡す限りの焼け野原が広がっていた。また、やってしまった。もう地球上におれ以外は、誰も残っていないというのに…。

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ギャクシンカ

実家の玄関先に、大人のオス猫ほどもある巨大なガマガエルが、仰向けにひっくり返って死んでいたので、明日の可燃ゴミを出す時に一緒に出そうと思い、そのままにしておいたら、さっきプリウスくらい大きなカラスがくわえて、持っていってしまった。まあ、自然界はよくできているもので、人間がむやみに手を出して、流れに棹さすものではないな。そう言ってから違和感を感じ、うなじに手をやると、そこにはウミガメほどの大きさの巨大なタガメが張り付いて、おれの頸動脈にクチを差し込み、ドクター中松考案の灯油チュルチュルのように、モノスゴい勢いで血液をジュッコジュッコ吸い上げていた。危ない危ない。ふんぬと気合を入れて心臓ポンプをフル稼働させ、頸動脈から一気にタガメの体液を吸い返し、ヌケガラをうなじにブラ下げたまま、コンビニでまるごとバナナとレッドブルを購入、帰った。それからしばらく、思考にタガメの思念が混入して、水槽のグッピーを手づかみでむさぼり食う等のヘマを時々やらかしたが、体調はすこぶる良くなった。

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夢の中へ

三蔵法師のお供で天竺に行くメンツが、おれ、イギー・ポップ、マレーバクなので、時代も変わったものだと感心している。たぶん状況がまだ飲み込めていないであろうイギーがいつも通り上半身裸でひょうひょうとしているのは、さすがに大物の風格だが、マレーバクはさすがに怯えているのか、鼻面をおれにこすりつけて甘えた声を出している。馬上の三蔵法師も一言も発せず微動だにせず、何を考えているのかわからない。シルクロードの徒歩の旅も、今では結構な頻度でコンビニもあり、昔とは比べ物にならないほど便利になった。だが、この炎天下だ。法師様、たまには馬からお降りになって休まれては。おれの声に何の反応もせず、まっすぐ前を向いたままの三蔵法師が、馬がつまづいて小さくよろけた拍子に、そのままゆっくりとバランスを崩し、乾いた音を立てて砂の上に落下した。法師は、とうの昔に白骨化していた。なんだ、死んでたのか。いくつかコンビニに寄るうちに気づいたら姿を消していたイギーに続き、法師までも。この旅、もう意味ねえんじゃねえか。出発時に比べずいぶん巨大化したバクの身体の下の日陰で休みながら、帰ろうにも自分がどこから来たのか、誰なのか全く思い出せないことに、気づき始めていた。

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